2013年10月31日木曜日

第8話 一時治療終了/2007.9.1

4週間。一口に4週間といっても私が経験した中で一番長い4週間だったろう。強い治療と副作用との闘いに明け暮れ、一日一日が過ぎていくのを指折り数える。まさにそんな毎日だった。

 治療も半分を過ぎた頃、トイレに行こうとしてようやくベットから起きあがって、絶えず何かにつかまりながら廊下を歩いていくのだが、フラフラするわ、心臓はドキドキするわで一苦労だった。用を足して帰るときには、来たとき以上にフラフラして、だんだん目の前が真っ白になっていく。この感覚は、例えば・・・、そうテレビの画面を思い出していただきたい。テレビに病院の廊下が写っている。画面の上下左右からだんだんと白くなっていって、ついには全部白くなってしまう、こんな感じである。ああ、これで気を失うなと言う考えが頭の中をよぎって、ドサッと廊下に倒れ込む。そこをたまたま通りかかった医者が「どうした?」と声をかけても返事がない。あわてて脈をとり、かつぎ上げてベットに運ばれるなんてこともあった。しまいにはトイレには車椅子で行く、しかも大の時だけ、なんて制限もされたりして。余談だが、私が車椅子を呼ぶということは、トイレに行くんだなということを皆に言っているようなものだ。車椅子でトイレから帰ってきて、「気持ちよかったか」「トイレはいいだろう」なんて まるで舞台役者に声をかけるようなかけ声が飛んできて、恥ずかしいやら 照れるやら・・・・。

 とにかく、こんな調子で最初の4週間の治療が過ぎていった。それは1ヶ月ちょっと前の私には全く想像できない日々だった。治療効果は驚くものだったらしく、著しい病状の改善が見られたらしい。白血病の治療に使われる薬は多種あり、またその組み合わせによってさらに多様になる。体質との関わりもあり、なかなか効果の上がる薬にめぐり会わない人もいるというのに、自分の場合は最初から、しかも白血病治療の薬としては非常にベーシックなものでとても効果があったというのだから、不思議としか言いようがない。

 入院した頃は半袖一枚で良かったのに、いつの間にか長袖のパジャマを着ている。同級生の間では就職や進学の試験を受けた、なんていう話しもチラホラ出てきた。高3の秋である。経理の専門学校に行こうとしていた私は、ああこれで経理の学校はダメだろうなぁという、いたって軽い意識しかなかった。それよりも卒業できるかどうかが問題だった。入院が長引けば出席日数が足りなくなる。高卒ぐらいの学力は、というより高卒という肩書きぐらい持っていないと、という思いの方が正直だろう。

 いろんな思いが頭を巡る。はっきりとわかるのは、カレンダーがめくれたことと、細くなった腕と足。
 こうして一時治療は終わった。

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