2013年10月31日木曜日

第7話 神様がくれた特等席/2007.8.31

治療も2週間を過ぎた頃、ひょんなことから1号室から5号室に移されることになった。何がひょんなことなのかといえば、本当は5号室に入るはずの人が、どこをどう間違ったのか1号室に入院してきてしまったのだ。それに気づいた婦長があわててその人に「5号室に移ってくれ」と話したのだが、「せっかく荷物も片づけて落ち着いたのだから動きたくない」と、だだをこねる。そこでしつこく頼めば、イヤという勇気など持っていないだろうという私に矛先が向いたわけだ。別に私が移らなくても1号室のベットはまだ空いているのだが、急な入院などのために空けておかなければならないのだろう。もちろん、その時はそんなことがわかるわけもなく、仕方なく移ることに同意したのだが・・・。

 5号室は1号室と違って、太陽の光がさんさんと降り注ぐという表現がぴったりの明るい病室だ。1号室は日当たりもあまり良くなく(第三話参照)、しかも比較的病状が重い人が入れられているので、雰囲気も暗いときてる。それに比べて、5号室には比較的病状の軽い人が入っている。そこに病状の重い奴が一人ポツンと入ってしまったわけだ。不思議なもので大部屋というのは一人でも病状の重い人がいると、それだけで部屋全体が何だか暗い雰囲気になってしまう。ミカンの箱の中に一つでも腐ったミカンがあれば、箱の中のミカン全部が腐ってしまう。ん? ちょっと違うか・・・。まあともかく、まさに私がそれになってしまったのだ。

 しかし周りの人には迷惑だったろうが、暗い病室で病気も重い人たちばかりの1号室より、明るい5号室の方がいいに決まっている。もちろん初めは、自分もせっかく慣れてきた病室を移るのはあまりいい気がしなかったけれど、それはそこ住めば都で5号室の良いところが見えてくる。それに窓際のベットだったので(窓際のベットは非常に人気があり、コンサートの席でいえばS席、舞台の最前列というところだろう)寝ているだけで、青い空を流れていく雲や、飛び交う鳥たちを見ることができた。七階だったから、ちょっとベットに起きあがると○○市の街並みも見える。まさに特等席である。

 この頃は、治療の副作用でベットにずっと寝たきりだった。不思議なもので、動こうとあがいて動けないとわかると、動こうという気持ちがなくなっていく。もちろん抗ガン剤の作用も多分にあるのだろうが、一日中ベットの上でピクリとも動かずにいても平気なのだ。星野富弘さんの詩に「動ける人が動かないでいるのには忍耐が必要だ。私のように動けないものが動けないでいるのに 忍耐など必要だろうか」という詩がある。少しづつ自分の状況を受け入れ始めたのもこの頃からなのかもしれない。まてよ、そうするといろいろなあせりや思い煩いは自分の姿を正しく受け入れていないというところからきているのかもしれない。
何はともあれ、昼間は流れてゆく雲を見て、夜はまたたく星を見る。ひょんなことから始まった病室移動騒動?は、私にとっても素晴らしい環境(病院の中で素晴らしい環境もないもんだが・・・)を与えてくれる主の計画だったのである。

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