2013年11月18日月曜日

第21話 放射線治療/2010.9.7

「匂いなんてしないよ」
「いや、本当に匂うんですって、すごく嫌な匂い。」
「うーん、そういえば、○○さんも同じようなこと言ってたなー。」

また、いきなり何の会話?と思われたでしょう。
美しい花の香り、いえいえ、新製品の湿布薬、とんでもない、麗しい乙女の香り・・・すみません、行き過ぎました。実は、この会話、放射線治療を巡っての、私とドクターの会話なのだ。

苦しい投薬・抗がん剤治療が一段落して、今度は放射線治療を行なうことに。
3日おきに、計10回放射線を照射する。照射部位は、ちょうどこめかみのあたり。
その治療を行なう説明を受けるには受けたけれど、何となくちんぷんかんぷん。患者の立場の私とすれば、医者がすると言えば、白旗を振って従うのみである。なんて従順な患者なんだろう。もっとも、反対する理由は何もなかったのだけれど・・・。

私が今度放射線治療を行なうとわかると、頼んでもいないのに放射線治療に関する情報が同じ入院患者などから提供されてくる。
「胃癌などの人が、お腹に放射線をあてる治療をしたりすると、苦しくてなにも食べられなくなってしまうらしいよ。でも、頭にあてるときはたいして苦しくないらしいから。」

病院だけに、そういう情報は妙に早く耳に入るし、また場所が場所だけに何か信憑性が高いような気さえする。

そんなやりとりがされているところに、放射線科からお声がかかった。これから照射部位を決めるのだそうだ。いったい何をするのかと思えば、毎回毎回同じところに放射線を当てるために、頭に印をつけるという。普通のマジックペンで…おまけに油性である。

放射線科から帰ってきた私の頭は、坊主頭にいたずら書きでもされたかのように、黒いマジックペンの線がいくつも踊っていたのである。

「おっ、かっこいいねー」
さっそく、同じ病室の人たちから声がかかる。
もうなんでもありだなこりゃ、と私も観念しているので、
「どうせなら黒いペンじゃなくて、赤いのや青いのを使ってくださいって言ったんですけどねー」
などと開き直ってみせる。まあ、別にこんなことどうでもいいんですけど・・・。

さて、しっかりと油性で書かれたしるしのおかげで、放射線の照射も順調にすすんでいった。
ところが、だんだん治療が進んでいくうちに、初めに書いたように放射線の匂いが気になり始めたのである。医者や看護婦の説明では、絶対に匂わないというのだが、そんなことはない。確かに、外から匂ってくるというわけではなくて、鼻の奥のほうから、からだの中から匂ってくるのである。なんとも言えない、気持ちが悪くなる匂いなのだ。

これは、退院してからのことなのだが、一度だけあの放射線治療の時の匂いに遭遇したことがある。話すのも恐ろしいのだが、ある知り合いのうちで夕食をご馳走になったときに、ソーセージのスープを作ってくれたことがあった。そのソーセージを一口食べたとき・・・・、なんとあの放射線と同じ匂いがしたのである。私は思わず吐きそうになるほど、気分が悪くなってしまった。ところが、回りの人たちは平気で食べているのである。いくら私と言えど、せっかく出されたのに、放射能の匂いがするなんて言ったら、そりゃ失礼である。気持ちの悪いのをこらえて、食事を続けた。あー、今思い出しても恐ろしい。放射能汚染は私たちのみじかにまで迫ってきている[がく~(落胆した顔)] まあ、本当に放射能だったら大問題だけれどね[ふらふら]

もとい。
匂いはとうとう消えることがなかったが、放射線治療は無事に終了した。私の頭のマジックペンの線も、少しづつ消えていった。

あれから放射線治療は、匂いがするという学説が発表されただろうか。もし発表されていれば、医学界を揺るがす大発見に・・・なるわけないか・・・。
参考までにつけ加えると、あれ以来放射能の匂いがする食べ物には幸か不幸かめぐりあっていない。

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